「黒猫とのの冒険」
実際に公園で拾われた猫の「との」の一生を書き留めたものです。とのは、小学生のえりなによって運良く拾われ、彼女の叔母の奈月の家に住むことになりました。その直後、病気をもったネコであることが判明しましたが、飼い主たちによって手厚い看護を受け、生き延びることができました。
とのは、猫としてはかなりどんくさい猫でした。それでも、飼い主の暁彦と奈月にかわいがられ、札幌から網走、函館、江別などの北海道各地を旅してまわり、多くの猫たちと知り合うことができました。最も親しかったのが、えりなの家にいたヴァロンという猫で、彼とは終生のつき合いになりました。
物語風の体裁にした部分についても、全くの架空ではなく、暁彦と奈月が体験した出来事を踏まえています。暁彦は少し屈折した性格をしていますが、しっかり者の奈月と、息子のようにかわいい「との」のお陰で、人生のつじつまをかろうじて合わせながら生きている人物です。登場する猫たちはすべて実在猫で、名前(奈月たちが勝手につけた名前を含め)もみんな本名です。
(構成)
一 との登場 とのがやって来た日のこと
二 とのの発作 とのの病気について
三 子供のころのとのとヴァロン 二匹の出会い
四 網走行き 網走の猫たちの生態と、彼らとの交流
五 盟友ヴァロン ヴァロンの猫となり
六 ヴァロン家の方へ ヴァロンとの冒険
七 ヒゲともんじろうの日々 函館の猫たちの生態と、彼らとの交流
八 沼のはし旅館の思い出 老舗旅館の女将の話と、少年暁彦の思い出
九 猫の身分証明書 猫の役割と、猫に交付されている身分証明書
十 その後のとのとヴァロン ヴァロンと、とのの死
「黒猫とのと龍の棲む山」
寿命が尽きたかと思われた、とのとヴァロンが舞い戻ってきたところから、この物語が始まります。
内容は二匹が龍の真実の姿を探し求める冒険です。
一 とのの帰還
とのが、冬の終わりの雪山を歩き回った顛末を披露。鹿や馬たちに会い、山脈のてっぺんで
龍がうごめくのを経験したり、熊になりたい大男とともに略奪された子馬を救出したり、遺棄され
る子鹿のことを思ったりしながら旅をした話です。
二 龍使い? 暁彦の熱情
とのの父親の暁彦(飼い主:人間)による「龍」の解釈を記述。彼は、甲骨文や民俗学というよ
うな学問を少しかじっていて、龍が原始の狩猟民の動物祭祀に由来する文字、観念であること
を熱く語ります。相当、マニアックな話です。
三 馬たちの行方
一網打尽にされた野生馬の救出に出かけます。大男が悲しい経歴を述懐し、村で暴力事件
を起こします。山に入った大男は、猟師によって熊と間違えられて撃たれます。
四 闘いの終わり
ある村できわめて稀な熊祭りが行われ、ヴァロンが捕らわれて処分されます。それを見た
とのは激しい憎しみに支配され、人間たちへの仕返しを誓います。馬が昔闘いに使った龍の
剣を手に入れ、巨大な魔猫となって村を襲いますが、そのとき子どもの純真な目の光に打た
れ、とのは自分の残虐さに気が付きます。
五 エピローグ
との、ヴァロンと、大男との再会 彼らは実は生きていたのです。