はなギャラリー

 我が家の愛猫はなは、なかなかイケネコだ。イケメンは人類の男に対する言葉なので、メスのネコをイケネコと呼ぶのは適切でないかもしれないが、そもそも造語は作った者勝ちなのだから、こんな表現をさせていただく。
 はなは、眠たいとき、腹減ったと鳴くとき、なでなでしてとすり寄ってくるとき、ボール遊びしようと目を輝かせるとき、普通のネコ顔をしている。ところが、あるときだけ、ネコとしてはなんとも奇妙な表情を見せる。

 思い起こすと、はなは一歳になる前から、私たち夫婦が居間で話しているとき、短い両脚を踏ん張ってすっくと立ち、居間の低いテーブルに両肘をついて、夫婦の話に耳を傾けることがあった。そして、話が途切れると、しっかりしたキラキラ視線を向けて、「話を聞こうニャン?」と語りかけてきた。
 ところが、いつのころからか、テーブル越しの彼女は、世間の酸いも甘いも知り尽くしたというか、目尻が垂れ瞳孔が小さい、ネコらしからぬ目をするようになった。頬がこけて、いかにもかわいげのない表情に見える。イケネコ豹変して、老衰間近のお婆の顔にも似ている。人の顔なら名誉毀損になりそうな批評だが、ネコにつきご勘弁。
 そういうとき、はなは、しゃべりはしないが、なにか意味ありげなオーラを送ってくる。ネコは、顔の表情を作る筋肉が犬などより未発達なので、表情が冷たく見えるというが、この場面の彼女は、私よりよほど愛嬌のある表情をしている。ということは私の顔面筋肉の方が未発達ということか。それはともかく、はなは、夫婦の話がいかにも気がかりだという様子なのだ。
 夜が更けるほどに、酔いが回り、その代わりろれつが回らなくなった人類を観察しながら、はなは、不細工だが豊かな表情で「ばか言ってんやニャーよ」とか「いい加減、寝た方がいいニャン」などと忠告してくれているようだ。