河出版日本文学全集

 このほど、池澤夏樹さん個人編集の河出版日本文学全集全30巻が、毎日出版文化賞を受賞した。10年前にも、池澤さんの河出版世界文学全集が同賞に輝いているという。何という壮挙、お祝い申し上げる。
 この日本文学全集の背表紙に、須賀敦子という作家の名を見て驚いたことを、はっきり思い出すことができる。それは、2018年11月ころだったはずだ。なにせ、谷崎や大岡昇平、大江や石牟礼らとともに、私のまったく知らない作家が、1人で1冊を占拠していたのだ。漱石や石川淳だって、1冊に3人で肩寄せ合って収まっているというのに。
 この全集で最初に注目したのは、評論家、吉田健一を1冊本に登場させたこと。この本を買おうとしてふと見ると、何度も繰り返すが、須賀本が目に飛び込んできた。この本の内容を立ち読みでどれくらい理解したか記憶にない。知らない作家だったからこそ引き寄せられたとしか言いようがない。家に帰ってからも、なぜ買ったのか自分で納得できずにいた。
 今年(2020年)6月、この須賀本を机の上に積んだ写真がある。そして、一月後の7月には、須賀敦子の個人全集全8巻(河出文庫)を探し回って、ようやく手に入れたというメモが残っている。コロナ禍の中、わずか1月弱で、私はすっかり須賀に首ったけになってしまった。須賀は、私の母親と同世代だが、まったくそんなふうに思えない。同じ時代、社会、空気を感じているかのようだ。須賀のことは、次の機会にもう少し踏み込んで書いてみたい。
 ところで、河出の世界文学全集も1冊だけ我が家の本箱に寝ている。バオ・ニン著「戦争の悲しみ」。彼は私と同い年で、ベトナム人民軍に入隊し各地の戦闘に参加した経歴を持つ。ベトナム戦争は、私にとってもっとも身近にあった戦争だった。