黒い毛糸玉

 数日前、2階のクローゼットを掃除していたら、籐タンスの下から黒い毛糸の玉が転がり出た。

 はなの道具箱に色ちがいの同じような毛糸玉があったので、黒いのもその中に入れた。その日の夜、はな主演の恒例のブラッシングとお遊びの時間。引出しから道具箱を取り出したとたん、はなはその中に顔を突っ込み、黒玉をくわえて絨毯の上に転がした。はなの新しもの好きは年取っても衰えを知らない。玉を追いかけ回すこと数十分、息が上がり気味なのに止めようとしない。家人は気づいた、この毛糸玉は、昔、とのが遊んだものにちがいないと。

 私もあることを思い出した。とのが去って2年後、はながこの家にやって来る2日前の夜、とのが、私の夢の中で「帰ってきたよ」と姿を現した一件だ。そのとき、とのは、両手で丸いボールのようなものを大事そうに抱えていた。私は、はなに出会ったとき、そのボールが、はなそのもので、とのが連れてきたような気がしてならなかった。そのことを思うと、ちょっと胸の奥が熱くなった。

 今日で3、4日経ったろうか。飽き性のはなは、性格が変わったように、まだ黒玉を追いかけている。