JNはな TM父しゃん

「JNはな」とは、もちろん「女子ネコはな」の意味。一説に常時寝ている「はな」という解釈もあるとか。では父しゃんにJNをつけたら? 「常時抜けている父しゃん」のこと。「常時ネチっこい」の読みもあるらしいが、どちらもヒトとなりを端的に表している、と言えるかどうかわからない。そもそもそのような造語がどうして必要か、などと考えるのは、もはやTMなのだ。TMネットワークのTMでなく、年寄り男ということ。
 ところで、父しゃんは今年になって、ある部分の内臓の調子がイマイチ良くない。以前も不協和音を感じたことがあったが、こんな数ヶ月もの不調は初めてのこと。びっくりしたり、怒ったり、激しい運動をしたり、仕事を突きつめたり、ネコやヒトのためにあくせくしたり、そういう無理を極力避けて大事に扱ってきたはずなのに、経年劣化ということなのだろうか。
 それとも、最近の国内外の政治情勢に対し思わず過剰反応したり、政治家や官僚のウソやまん延するヘイトスピーチに対抗してもっと酷いヘイトスピーチしたり、身のほど知らずの行いをやっているのが原因なのか。
 自己診断は禁物なので、心臓・血管疾患専門の病院へ行った。いくつもの検査を経て、やっと診察室に呼ばれた。
「なにせ息苦しくなるんです。胸が重苦しかったり、ときどき痛むこともあります。若いときのキュンと締め付けられるのとは違います」
 父しゃんは、診察室の雰囲気のもやもやを払おうと、ついよけいなおしゃべりをした。
「心臓自体、それに血液や血管に異常は認められませんね。でも、安心は禁物です」
 年配の医者はレントゲン写真を見直した。
「もしもですね、その年齢で狭心症なら、ぽっくり逝く危険性はかなりあります。なので、また症状が出たら、すぐニトロを使ってみてほしい。効果があるなら正真正銘の狭心症。何も変化がなければ心臓のせいではありません」
「心臓の苦しさが長びくのは、あなたの背骨が湾曲しているせいで、上半身の骨格や筋肉に無理がかかり、圧迫されているのが原因かもしれません。肩こりしませんか?」
「えぇ、します」
 そうなのだ、父しゃんは子どものころから肩凝り性だった。今も、狭い椅子に縛り付けられ、エビのようになっている。 
「それに、心臓を正面から見ると、何だかいびつですね。あなたの胸の骨がちょっと引っ込んでるから潰れてるんでしょう」
「そんなこと、一度も言われたことがない」
 そう言おうとしたが、医者の言葉に意表を突かれ、語彙が出てこなかった。
「カイロとか整骨整体で、そのあたりを看てもらったらどうでしょう」
 カイロでなく、パリではダメでしょうか、と父しゃんは軽口をたたく気分にもならなかった。
 心臓は放っておけないので、数日して知り合いの整骨へ行った。医者から聞いた話をしたところ、その整骨院で施術可能とのこと。すぐ30分から40分かけて、全身入念な施術を受けた。
「骨格のうち、とりわけ肋骨の動きが硬いですね。心臓が圧迫されているというより、肺の動きに無理がかかっているんじゃないでしょうか」
 ヒトの体とはなかなか一筋縄で解き明かせないものらしい。でもあちこちかかってみると、何となく素人にもわかってくるような気がする。様子を見て、来週もう一度、整骨の施術をやってみようと思う。
 帰りがけ、車の中でラジオを聞くともなく聞いていると、今の若者の相当数がスマホ病を患っているという。その症状が、まるで私の具合悪さと同じなのだ。
「ひょっとしたら、君らも狭心症かもしれないぞ」と、ヒトを脅してどうする、父しゃん!